公開日:2018.03.27
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工務店は相見積りの見積り金額を状況次第で変えなければならない深刻な理由
設計事務所の方とお会いすると、工務店の見積り金額の話になることがあります。
そんなときは決まって、
「工務店の見積り金額が高くて困っている。」
という話になります。
設計事務所としては、お客様の要望と自分の設計に折り合いをつけなければなりませんので、このような感想は理解できます。
設計事務所側の認識としては、
「工務店が利益を高めに確保している(儲けている)」
と思っていることもありますが、設計事務所案件に対応する工務店にはあまり当てはまりません。
起業する前に木構造メーカーの社員として工務店の決算書等の資料をよく見る機会がありましたが、少なくとも設計事務所案件に対応している工務店で、「儲け過ぎている」工務店など見たことがありませんので断言できます。
工務店も設計事務所案件だけをやっている会社もあれば、自社案件や事業会社案件、設計事務所案件など複数の受注ルートを確保している工務店も多いので、設計事務所案件で必要以上に利益を確保する必要ありませんし、設計者の見積り査定がありますので無理なことも承知しています。
住宅の見積りは、「ヒト・モノ・経費」の合計金額ですので、モノの価格は設計や仕様、ヒトの価格は大工さん・職人さんの人件費ですので地域差があり、残りは経費となります。
設計事務所が工務店の見積りを見て、「高い」と感じるのは以下の場合が多いようです。
・ 長くお付き合いのある工務店の金額が明らかに高くなった場合
・ 初めて見積りをとった工務店の金額が、普段お付き合いのある工務店の金額より高い場合
・ 施主や設計事務所が希望する金額よりも、大幅に金額がオーバーする場合
設計事務所案件の場合は、相見積りをすることが多いので、3社の中でも見積り価格の差が大きくなったときに不満を感じるようです。
相見積りの場合、工務店の判断によって見積り価格が変動することは、あまり知られていない事実です。
相見積りに参加する工務店のマインドとしては、主に下記の3つが考えられます。
1. どうしてもその案件を受注したいため、経費を抑えるなどして勝負に行く場合
2. 特に見積り金額を調整せず、通常のモチベーションで見積書を提出する場合
3. 受注に前向きだったが、何らかの理由で受注しないように高めの見積り金額を提出する場合
以前は、上記1もしくは2の状態で相見積りが行われることが多かったのですが、ここ数年の工務店を取り巻く状況の変化で上記3の割合が増えていることが問題です。
上記3の最も大きな理由は、人財不足です。
現場監督も大工さんも職人さんも急には増やせないし、現場監督の求人をかけてもなかなか採用できなくなっています。
その傾向は年々高まっています。
ほとんどの工務店が限られた現場監督、大工さん、職人さんで家づくりの施工を行っているため、自社の限界を超える仕事は受けることができないのです。
以前は、現場監督を増員したり、大工さんや職人さんのネットワークでピンポイントで人を集めることも可能でしたが、今後の建設市況では仕事ができる人ほど常に仕事で埋まっていますので、仕事の増減に対応できない状況が続いています。
その結果、受注する意思はあっても、他の仕事との絡みもあり、自主的に辞退するために「見積り金額を高めに出すことで受注を回避せざるを得ない」判断が工務店に生まれます。
工務店としても、設計事務所からの見積り依頼はとても嬉しいことなのですが、施工体制に限界があることは事実ですので、苦渋の決断をしていることになります。
工務店は、現場監督さんと大工さんの人数で手がけられる棟数が決まります。
大工さんの木工事は、注文住宅の場合、一つの現場で4ヶ月前後かかりますので、一人の大工さんが年間に施工できるのは3棟が目安です。
相見積りも施工体制に余裕がある同等の実力、実績がある工務店に2〜3社参加してもらえるのであれば、どの工務店に決まってもお客様には施工品質を担保できるので良いと思います。
悩ましいのは、工務店側の状況が異なる(施工体制の規模や、直近の受注状況)中で、純粋に価格競争を行うことができないことを、わかった上で相見積りを行うのか、知らないふりをして相見積りを行うのかで、家づくりの結果が変わってしまうことです。
反対に工務店の候補を特命であらかじめ決めておくと、工務店もその仕事の施工体制は確保せざるを得ないわけですから、必然的に見積書の内容や価格を純粋に設計事務所が査定すればよい状況になります。
現在の設計事務所案件の状況は、20年前の状況を引きずっています・・・。
20年前と現在では、工務店の数は半減しています・・・。
設計事務所案件に対応できる施工力のある工務店はもっと減っています・・・。
業界の慣習やルールにとらわれず、現実の状況を直視することで、家づくりの世界はまだまだ変えられると思っています。
ハウス・ベースは、つくり手に時には耳の痛い話を続けることで、本音で付き合える関係を構築し、すまい手により良い家づくりを提供したいと考えています。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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