省エネ基準適合義務化に慎重論が相次ぐ住宅・建築業界は当事者意識が薄すぎる
国は住宅や建築物の省エネルギー基準への適合義務化の在り方などを決めていくための議論を始めました。その議論で専門家の一部から、住宅を中心に省エネ基準への適合義務化に一定の配慮を求める声が相次いでいます。住宅・建築業界の混乱や消費者のコスト負担などが主な理由ですが、温熱性能が低い住宅で暮らす健康リスクや医療費増大の社会的負担はあまり語られません。「誰のための住宅・建築なのか?」を考えると、圧倒的に当事者意識が薄すぎると言わざるを得ません。
建築分野の省エネ基準適合義務化の現状
2015年12月に地球温暖化問題を受けた国際的な枠組みであるパリ協定が採択されました。住宅や建築物に関連する「業務その他部門」と「家庭部門」における二酸化炭素の排出量を2013年度比で、それぞれ約4割削減する目標が掲げられました。
そして、2020年までに新築の住宅や建築物の省エネ基準への適合義務化を段階的に進める方針が、エネルギー基本計画で示されています。
既に段階的な施策として、床面積が2000m2以上の非住宅の特定建築物については、新築時に一定の省エネ基準を満たすよう建築物省エネ法で義務付けています。
一方で、マンションなどの中大規模の住宅や床面積が300m2以上2000m2未満の建築物に対しては、省エネ性能を示す届け出を義務付けるにすぎません。
国土交通省によると、床面積が2000m2以上の住宅で、省エネ基準適合率が60%にとどまっているそうです。
住宅分野の省エネ基準適合義務化の現状
床面積300m2未満の小規模な建築物、住宅に対しては、省エネ性能の向上や省エネ基準への適合は努力義務にとどめています。
2020年には全ての住宅に省エネ基準適合義務化となりますが、国土交通省によると、従業員4人以下の住宅事業者では、一次エネルギー消費量や外皮性能を計算できない割合が約6割に及ぶとの調査結果もあります。
住宅における省エネ対応の費用対効果の試算結果によると、床面積120m2の戸建て住宅の場合、建設時の追加コストが約87万円で、光熱費削減による初期コストの回収期間は約35年に及ぶということです。
住宅分野に関わる人で省エネ基準適合義務化に反対する主な理由は、画一的に押し込めることで設計の自由度が少なくなるということや、計算や申請業務等の作業が増えるという認識です。
不動産分野に関わる人で省エネ基準適合義務化に反対する主な理由は、消費税増税を控えていることもあり、コストアップになると消費者の購買意欲が下がる懸念があるという認識です。
省エネ住宅はすまい手の健康を守り社会的負担を減らせる
住宅の省エネ性能向上の必要性は、供給側である「つくり手」の事情ではなく、所有者や利用者である「すまい手」側により配慮すべきです。
特に注文住宅だから個人の自由という発想ではなく、温熱性能が低い住宅は「夏は暑く冬は寒い」ので健康リスクの増大にもつながる話です。その結果、国の医療費は増えて、社会的な負担もとても大きくなります。
「省エネ」は世界で決めたルールだから実行することに加えて、すまい手の健康を守ることで社会的負担を減らすという側面をもっと認識すべきだと考えます。
まとめ
設計の制約やコストアップを理由に省エネ基準適合義務化に反対する人の多くは、「省エネ基準以下の住宅をつくっている」と宣言しているのと同じです。新しい法律や基準が出てきたときに批判することで取り組まないのは「法律や基準以下の住宅をつくっている」と宣言しているとも言えます。住宅のつくり手には、「過去を守ることで未来を否定する会社」と「過去を見直すことで未来を獲得する会社」が存在します。すまい手にとって頼れる存在は、圧倒的に後者です。
今回ご紹介する優秀な設計事務所
家づくりは人と人との信頼関係です。何よりも設計者と建築主とのコミュニケーションが大事だと思います。私たちの提案「パッシブデザイン・ゼロエネ住宅」「高い性能、使い勝手とコストのバランス」「庭づくり」に共感していただけるなら、いっしょに家づくりをしませんか。楽しい協同作業からは、大らかな空間を持つ素晴らしい住宅が生まれます。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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