省エネ法適合はコストが高い?省エネと断熱が健康リスクを下げる理由
「すべての住宅が省エネ基準適合義務化」となる予定が延期された理由の中に、省エネ基準を満たすとコストアップになるので、消費者が住宅を購入できなくなるという指摘がありました。その問題は正確なデータや根拠に乏しい話で、住宅供給者側の事情で決まった「間違っている事実」です。住宅を購入する際に、しっかり勉強して優良な住宅会社を選んだ「リテラシーの高い施主」は省エネで快適な住宅を手に入れることができ、あまり勉強せず温熱性能の重要性に気づかなかった「リテラシーの低い施主」は温熱環境の低い住宅で寒さと高い光熱費に苦しむという図式は大問題です。
住宅を省エネ法に適合させるには「省エネ」と「断熱」が必要
住宅を省エネ法に適合させるためには、設計1次エネルギー消費量を基準値以下に減らす「省エネ」措置とともに、熱の逃げを防いで冷暖房負荷を減らす建物外皮の「断熱」が必要になります。
一次エネルギーとは、火力、水力、太陽光など、自然から得られるエネルギーのことです。住宅において、地域区分や床面積等の共通条件のもと、実際の建物の設計仕様で算定した設計一次エネルギー消費量が、基本仕様(平成11年基準相当の外皮と標準的な設備)で算定した基準一次エネルギー消費量以下となることを基本とします。一次エネルギー消費量は、「暖冷房設備」、「換気設備」、「照明設備」、「給湯設備」、「その他設備」のエネルギー消費量を合計して算出します。
建物外皮とは、屋根、天井、壁、開口部、床、土間床、基礎など熱的境界となる部分をいいます。
設備の省エネについては、高効率機種のコストダウンが進んだおかげで省エネ基準の達成はやりやすくなっています。ヒートポンプ給湯器などを普通に購入できるようになりましたので、建築物省エネ法の求める省エネ基準を満たすことは容易になりました。
一方の断熱は、断熱材を厚くしても窓を高断熱化するため、そのためのコストは必要になります。断熱化の鍵は、断熱材よりも開口部なのです。仮に高断熱化を実現しても、暖冷房にかかる光熱費の低減効果が低いとされ、今回の「省エネ基準義務化」の見送りにつながっています。
この「高断熱はコストパフォーマンスが低い」という検証には、比較する対象の「省エネされていない住宅」の仕様がガラスは単板で断熱材は低性能でとても薄いものとなっているなど、現在の平均的な住宅の仕様と大きく異なっています。「省エネ基準に適合された住宅」とのコスト差を大きく見せるための作戦だったようです。
断熱性能の低い住宅はヒートショックや低体温症などの健康リスクが大
冬がとても寒い日本では、暖房は限られた部屋で、時間も最小限に行うことが一般的でした。家族全員でこたつに入って暖房ストーブでその部屋を暖めるという感じです。そのため暖房コストがもともと安く抑えられてきたため、断熱強化しても暖房低減の恩恵が少なく見えてしまうのです。
現実には、日本では暖房費が家計のやりくりで負担できる範囲の金額におさまるように、家の中で重ね着し、暖房するスペースを限って暮らしている家庭が多いのが実態ではないでしょうか。
既存の住宅のほとんどは低断熱で低気密のため、住宅内部全体を暖めようとすると莫大な光熱費が必要になります。そのため、多くの住宅では、暖房を限定的に行うしかありません。
そうして発生する住宅内部の無暖房の寒さが、ヒートショックや低体温症など大きな健康リスクをもたらすことが明らかになっています。しかしながら、温熱性能の低い住宅では、断熱リフォームなどを実行しない限り、そうした健康リスクを下げることはできません。
まとめ
健康のため住宅内部を全て暖房すれば光熱費がとても必要ですし、既存住宅に断熱リフォームを行うにはそれなりに費用がかかります。現状では寒くて不健康な環境で暮らすことを余儀無くされます。対策としては、住宅の外皮性能を引き上げて、高効率なエアコンを使用して暖房できるようにする必要があります。エネルギーを多く使用し、健康リスクの高い住宅を建てることを止めるためには、最低でも「省エネ基準」はクリアする必要があります。国が「省エネ基準義務化」していないから省エネ性能を高めないというのではなく、健康で快適な暮らしのために「高断熱化」は必須なのです。
今回ご紹介する優秀な設計事務所
家づくりは人と人との信頼関係です。何よりも設計者と建築主とのコミュニケーションが大事だと思います。私たちの提案「パッシブデザイン・ゼロエネ住宅」「高い性能、使い勝手とコストのバランス」「庭づくり」に共感していただけるなら、いっしょに家づくりをしませんか。楽しい協同作業からは、大らかな空間を持つ素晴らしい住宅が生まれます。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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