公開日:2018.10.10
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設計事務所に「裁量労働制の不正適用」で是正勧告が出る時代に
設計事務所に「裁量労働制の不正適用」で是正勧告
先日、設計事務所業界ではトップランナーの会社に、「専門業務型の裁量労働制を不正適用した」ということで中央労働基準監督署から是正勧告がされたという報道がありました。
「専門業務型の裁量労働制」とは、時間配分の裁量を労働者に委ねる必要がある専門的な業務を定め、労使協定を結んで労働時間を決める制度です。
労働者にとっては、働き方に対する自由度が高くなる一方、1日に何時間働いてもみなし労働時間分の勤務とみなされます。
今回のケースでは、設計事務所側は専門業務型の裁量労働制をある人数分に適用していましたが、「労使協定を結ぶ労働者代表を適切に選出していなかった」という理由で、適用が無効と指導されました。
なかなか厳しい指導です・・・。
今回のケースはいろいろなことを問題視しています。
・業務量が多すぎて裁量労働制が機能していないこと。
・裁量労働制を適用する範囲を建築士の業務と規定していたが、協定届に記載のないデザイナーの業務まで含めることで、建築士資格のない人にまで対象を広げていたこと。
是正勧告を受けた設計事務所は、是正勧告の内容を真摯に受け止め、改善措置を講じ、従業員の健康確保のため長時間労働などの対策に取り組むそうです。
他の設計事務所にも調査が入ったという情報を耳にするようにもなりました・・・。
これからの設計事務所が考える働き方
大学卒業後、設計事務所で「修行」した自分にとっては、いろいろ考えさせられるニュースでした。
正直に言うと、私も設計事務所勤務時代は「残業時間など計算したこともない」ほど、働いておりました。
まだ「ブラック企業」という言葉もない時代でしたが、会社に強制された訳でもなく(たまに無理なノルマはありましたがw)、「設計の仕事をやりたい」という想いで、貪欲に仕事に取り組んでいた結果でした。
設計事務所の仕事の大変さ、難しさ、責任の重さなども理解しているつもりですので、今回のことで特定の設計事務所を非難する気持ちは全くありません。
ただ、時代も動いており、働く人間の意識も変わり、テクノロジーも進化しているので、「変わる必要」はあると思います。
全てを満たすことは不可能ですので、「トレードオフ」で決めて行くしかないのではないかと考えます。
具体的には下記のいずれかのような対応を迫られると思います。
・人財の確保(採用、人件費の負担など難しいことは承知してます)
・仕事量の平準化(相手があることなので難しいですが・・・)
・仕事のやり方の見直し(必要以上に図面を書いていないかなど)
・設計監理料の見直し(適正水準まで上げる交渉が必要)
・テクノロジーの活用(多機能のCAD利用やBIMの導入など設備投資にはなりますが費用対効果は高いかと)
・専門家とのコラボレーション(不動産会社、建設会社、工務店、メーカーなどとチームを組み、自社が取り組むべきことを限定して注力する)
・複業や別会社を持つ(設計事務所以外に収益源を持つ。異業種でもOK。)
この問題は特定の設計事務所の問題ではなく、「設計事務所業界」全体で考えなければならないと思います。
なぜなら、住宅・建築業界において「設計者の存在」は永遠に必要だからです。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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