注文住宅の価格は相見積りするとホントに安くなる?設計事務所案件の大きな誤解
注文住宅の家づくりにおいて、設計事務所に設計監理を依頼した場合、施工を行うのは工務店となりますので、工務店に見積りを依頼することになります。1軒の住宅で複数の工務店に見積りを依頼することを「相見積り」と言います。相見積りは競争原理が働いて価格が安くなることが期待できそうですが、実態は異なります。このコラムでは、知っておきたい設計事務所案件の見積りの実態についてお伝えします。
なぜ、設計事務所案件では相見積りが常態化しているのか
注文住宅の家づくりにおいて、設計内容に基づき工務店が算出する見積り金額はとても気になることですよね。
設計事務所案件では、特にお客様の要望や設計のテクニックが盛りだくさんに設計図に含まれているため、最初の見積り金額は予算に対して大幅にオーバーすることが多くなります。
設計事務所案件では、2〜3社の工務店に相見積りをすることが常態化しています。
買い物や旅行など価格を比較して選ぶことが日常になっているため、ある意味で一般的な考え方ではあります。
なぜ相見積りを行うかについては、設計事務所によっていろいろと考え方がありますが、主な理由としては下記となります。
- 工務店を決定するにあたり、見積り金額が一番低い会社を選ぶことに妥当性がある
- 競争原理が働き、見積り金額が安くなるのではないかという期待がある
- 複数の見積書を比較することができるので、単価や数量をチェックしやすい
- すまい手がプロセスを含めて納得すると設計事務所は考えている
設計事務所にとっては、相見積りを実施することで客観性の高いプロセスで工務店を選定したという事実により、自身の職能を守るという側面もあります。
しかし工務店の選定を「価格優先」で決定することによる大きな問題が潜んでいるのです。
注文住宅の価格は、相見積りの結果、品質を確保したまま安くできるのか?
すまい手の視点で考えても、相見積りをすることは、合理的な判断ではあります。
設計事務所案件の相見積りの場合、見積り依頼先の全社が工務店としての実力・実績が同等クラスの会社が参加してくれるのであれば、純粋に見積り金額や相性などで決定することもよいかと思われます。
筆者が問題視しているのは、現実的に小規模の木造住宅の仕事において、設計事務所案件に対応できる工務店の中で、実力・実績が同等クラスの工務店を3社選定して相見積りを行うことは、工務店側の人財事情や経営判断により年々困難になってきているのが実情です。
設計事務所案件の相見積りで注意する点としては、「見積り金額を重視するのか」「工務店の技術力や相性を重視するのか」などの優先順位を明確にしておくことです。
技術力がある工務店のみで相見積りを行ない、比較検討できるのは見積り金額だけというような場合はよいのですが、経営状態が厳しい工務店が見積り金額を安く提出して受注する場合は注意が必要です。
現場に入ってから、施工を安い業者や職人に発注して品質や工期が守れなかったり、工事中に工務店が倒産してしまうリスクもあります。
設計事務所案件の相見積りで抑えておくべきポイント
設計事務所案件の相見積りにおいて、知っておきたい事実としては下記となります。
1.注文住宅の価格のコストダウンには限界がある
注文住宅の価格は「ヒト・モノ・経費」の合計金額で決まります。
ヒト(大工さん、職人さん等)の手間代は面積で決まる部分ですし、モノ(建材、設備等)の価格は設計の仕様によります。
工務店として、コストダウンを図ることができるのは、経費の部分をどの程度下げることができるのかで決まります。
2.工務店のモチベーションを考える
工務店は設計事務所から見積り依頼があり、見積りに参加すると決めた以上はその仕事の受注に関しては前向きです。
設計事務所の図面から設計の意図を汲み取り、見積りを行ないます。
見積りの業務は、数量の算出から各メーカーや業者に見積り依頼を行ない、その内容を見積書にまとめるということで想像以上に手間のかかる業務です。
提出した見積書に対して設計事務所が査定を行うわけですが、項目や数量、単価に関する指摘だけではなく、単純に「より安くしてほしい」と伝えられることがあります。
そのような場合は経費を下げていくわけですが、工務店も仕事を受注する上で、必要最小限の経費の確保は必要となります。
そのような事情も考慮せず、「見積り金額が高いからとにかく安くしてほしい」というような一方的なお願いばかりでは、工務店側も会社の実力ではなく「見積り金額」だけで判断されることに違和感を感じ、その見積りに関する意欲を失うことにつながりますので注意が必要です。
工務店も複数の取引先がある会社がほとんどですので、どの仕事を受注するかの選択肢は工務店側にあります。
「話のわかる良いお客様」になったほうが、金額交渉でも有利なことは事実です。
3.相見積りの最大のリスクは「工務店が仕事を断れる」こと
相見積りで気をつけなければいけないのは、工務店側に敬意を払いながら見積り依頼や査定、調整を行わないと、上記2のような理由により、工務店側にその案件に対しての意欲が失われ、仕事を受注しないために「見積り金額を安全側(保険をかけた高めの)の金額で出しておく」というような判断が生まれます。
相見積りをするということは、見積りに参加した工務店による競争を期待しているわけですから、このような事態になってしまうと、相見積りを行うこと事態が不毛なことになってしまいます。
上記のようなことにならないように、設計事務所案件において相見積りを行う場合には、設計事務所と詳細を協議しながら進めることが重要です。
まとめ
実力、実績のある設計事務所は、あえて相見積りを行わず、施工を依頼する工務店を決めていることが多いです。
なぜなら、お互いの信頼関係が構築されているため、見積りの金額は適正価格ですし、施工においてもその工務店の技術力を評価していますので、「私の設計は、この工務店で建てることがベストです」と、すまい手に明確に説明することができます。
すまい手にとっても、自分が信頼して設計を依頼した設計事務所が自信を持って推薦しているのですから、その方針に同意しやすいのです。
もちろん、そのことを裏付けるために、設計事務所は基本設計段階で概算見積りをその工務店に依頼するなどして、設計内容と予算のすり合わせを行うと共に、すまい手と工務店と早期の顔合わせを実現し、施主、設計者、施工者の3者でより良い家づくりを行うチームを構築しているのです。
例えると、大事なお客様を食事に招待するというときに、グルメサイトの評価で決めたお店に初めて行くよりも、自分が通っていて味もサービスも信頼できるお店にお客様をお連れしたほうが、お客様に喜んでいただけますよね。
設計事務所案件における工務店選びも全く同じです。
今回ご紹介させていただく優秀な工務店
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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