建築家の本音シリーズ1:コミュニケーション能力がある人は限られている
「建築家」という言葉は聞いたことがある人が多いと思いますが、実際にどんな仕事をしているかは想像しにくいですよね。建築物の設計をしている人というイメージはあると思いますが、仕事に対する姿勢や価値観などは意外とわかりにくいと思われます。そこで「建築家の本音」と題して、建築家の実態をお伝えしていきます。
「いいデザイン」がしたい建築家
建築家は、建築設計の専門家です。正式な名称は「建築士」であり、設計できる建築物の規模や構造によって「一級建築士」と「二級建築士」がいます。建築家は資格ではないので、本人が名乗るかどうかの問題なのですが、日本では「建築設計を専業で行なっていて、デザイン性の高い建築をつくることを目標にしている人」と認識していただければと思います。
すまい手が住宅の設計を依頼するのは、意匠設計(デザイン)を主業務とする建築家になります。建築雑誌や住宅雑誌でよく紹介されているのも、この意匠設計が得意な建築家です。
全ての建築家にあてはまるわけではありませんが、建築家の本音の筆頭にくるのが「いい住宅をデザインしたい」ということです。いいデザインをすれば、すまい手も喜びますし、建築雑誌でも取材してもらえるので、その雑誌を見た新たなクライアントから設計依頼が舞い込む可能性もあるからです。
「いいデザイン」をしたい建築家ですが、それぞれ独自のポリシーや仕事の進め方を持っています。ただし、その違いで人気が出るか出ないかの大きな開きが生まれます。
建築家選びの最大のポイントは、「コミュニケーション能力」
一方で「建築家には世間的な常識がない」と同業者である工務店などから嘆きの声を聞くこともあります。これは建築家のコミュニケーション能力不足が主な原因です。理由は明確で、その建築家が学んだ大学の建築学科では、建築業務を円滑に進めるためのノウハウや姿勢などを学ぶ講義などは無いからです。独立前に修行した設計事務所でも、図面作成や申請業務などの専門的な実務に追われ、クライアントや建設会社とのコミュニケーションのコツをつかむ経験ができている人は限られているのが現状です。もちろん本人の才覚や努力が重要なのですが。
人気や実績のある設計事務所は総じてコミュニケーション能力が高いと言えます。世間的な常識も身につけていて、仕事がスムーズに進行することが多いです。実力のある建築家には、関係者の意見や利害を調整するバランス感覚もあり、現場を仕切るリーダーシップがあります。
しかし、多くの設計事務所がそれほど理想的というわけではありません。すまい手の利益を優先すべきなのに、それを疎かにしている建築家も少なくありません。「建築家は弁護士のような存在」という良心的な解釈もありますが、建築が好き過ぎて「自分が実現したい建築のためにエネルギーを費やす」ことに注力するあまり、発注者であるすまい手のお役に立つ存在になっているかが怪しい設計事務所も多いのです。
また建築家は住宅の性能を数値で示す住宅性能表示や長期優良住宅などの行政側の施策に対しても懐疑的な人が多いです。それよりも採光や通風といった「自然の恩恵を活用する空間的な提案」に基づく情緒性や感性の満足を大切にしています。
このような建築家、設計事務所の特性が、すまい手の「より安心して住宅を建てたい」という想いに対して、構造計算や省エネ計算等の科学的な裏付け、そして住宅性能表示や長期優良住宅などの優遇施策の利用について、建築家が前向きに対応するという話はあまり聞こえてきません。
まとめ
住宅の設計者として建築家に求められる能力とは、お客様のニーズやウォンツと、「デザイン・機能・性能・コスト・メンテナンスへの配慮」が両立できる設計ができることです。そのためには、すまい手や工務店とのコミュニケーション能力や、コスト感覚、スケジュール管理など、設計以外での仕事人としての能力が求められます。設計だけ上手にできる人はいくらでもいるのですが、能力・経験・バランス感覚のある設計者は全体の3パーセント程度というのが筆者の実感です。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
最新記事 by HOUSEBASE 代表取締役 植村将志 (全て見る)
- 4号建築物も構造図書の保存義務化へ - 2020年1月10日
- 耐震等級の徹底解説!住宅性能表示の構造の安定とは? - 2019年7月29日
- 住宅のリフォームは「健康性能の強化」が必須な理由 - 2019年6月15日
- 工務店は「事業承継できるかどうか」で選ぶ時代に - 2019年5月20日
- 省エネルギー住宅の「全館空調」はエアコンのみで実現できる - 2019年5月19日
こちらから(コメントフォーム)自由にコメントください!