公開日:2016.05.29 / 最終更新日:2018.11.03
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「ウチが一番いいよね」が、最高のほめ言葉。
東京・世田谷区の閑静な住宅地にある関年希建築設計事務所。
代表の関年希(せき・としき)氏は、大手ハウスメーカーに19年勤め、独立してから今年で19年。独立後の歴史がサラリーマン時代を追い越していく節目の年になります。ジャズが流れる素敵なオフィスで、設計者として、そして人間として、ますます円熟味を増していくその魅力に迫りました。
ツキとご縁に恵まれて、ここまで来ました(笑)
僕がいたハウスメーカーは、大手だっただけに完全に縦割り体制で、僕はあくまでも設計が仕事。依頼を受けた当初は打ち合わせに次ぐ打ち合わせで、お客さまと頻繁に会うものの、やっと設計が固まっていよいよこれから、という時に、あとは工事の人たちに任せちゃう。一番楽しくなった時に切られる感じですよね。最後まで責任をもってやり遂げたいと思い、独立を決めました。
ハウスメーカーで19年の設計者というと結構なベテランの立場になっていて、最後のほうは銀行の頭取さんとか、いわゆるVIPの方々を担当するようになっていたんですね。独立後、最初にごあいさつに行った相手もそんなVIPの中のお一方で、ちょうど親御さんの住居を自分の家の敷地内に増築しようとしていたタイミングでした。ほかの設計事務所に頼んでいたもののなかなかうまく進まずにいた時に、たまたま僕が独立したと知って、「じゃあやってみるか?」と。それが最初の仕事になりました。この展開、ツキがあったとしか思えませんよね(笑)。
来年は独立20周年と100軒記念の年に?
このようにお客様とのご縁で、ご兄弟、ご両親、知人の方とつながっていきました。前の会社では「関のお客さんからは引き上げろ」とお達しが出たそうですが、大手企業に対してたかが設計者1人ですから、とがめられるようなことはありませんでした。今思うと、前の会社のおおらかさには大いに感謝しなきゃダメですね。
独立後は、念願叶って工事にも立ち合い放題ですから(笑)、多い時には2日に1回は現場に足を運んでいます。一般的な設計者は週に1回か2週間に1回くらいじゃないかなぁ?大工さんたちも内心、「また関が来たよ」とあきれてるんじゃないかと思っています。
独立後に手がけているのは、共同住宅やオフィス兼用住宅も含め、すべてが木造住宅です。現在、実績は90数軒。20周年にあたる2017年中には、100軒に到達できるんじゃないかなと、今からワクワクしています。
木造住宅へのこだわりは小学校高学年から
僕の木造住宅へのこだわりは、さかのぼること約50年(笑)。小学校高学年の頃によく遊びに行っていた家が有名な建築家の設計だったんです。中庭があって2階がLDKで、当時にしてはかなりモダンなデザイン。
「こういう家に住みたい!」「つくる人になりたい!」
と率直に思いましたね。
以来、僕にとっての「建築」は、一貫してイコール「住宅」でした。大学の建築学科への進路を決めた時には、友だちから、「お前みたいに頑固に子どもの頃から同じ夢を貫いてるヤツは珍しい」と言われました。
僕は「今建てている家が一番いい!」
森のように植物が息づく自宅兼事務所の中庭
夢を叶えて住宅の設計者としてのキャリアは積んでいましたが、独立当初は、京王井の頭線・明大前駅近くのマンションの1室からのスタート。そして2002年に晴れて現在の自宅兼事務所を建てることができました。設計者が自分の家を設計して住むのはとてもいいことですよ。長年、仕事をしていると、知らず知らずのうちに自分なりの方程式ができ上がってしまうものです。住むことで初めてユーザーの立場になって、「ここがダメだったな」と感じることができるんですね。特に自分自身が歳をとっていくにつれて、「もっと使い勝手がいい設計ができたのに」と思うことが新たに出てきます。こうした気づきを大事にして、その後の設計に生かすのが僕の方針です。
それに、さまざまなメーカーの担当者とお付き合いが長くなると、新商品の情報がいち早く送られてきます。僕は「いいな」と思う商品はどんどん取り入れる主義。よりいいもの、より面白いものをその時つくっている家に盛り込んでいくので、毎回、「今建てている家が一番いい」と感じています(笑)。
お客さまは「いろんな家を見ても、ウチが一番いい!」
そこに住まう家族にふさわしい家
僕の感じ方とは違って、お客さまからは「いろんな家を見る機会があるけど、やっぱり自分のウチが一番いいよね」と言っていただけることがあります。何年も前に建てた家でも、自分の家が一番いいと思ってくださっているんですね。
それは、僕がいつも「そこに住む家族にふさわしい家」を意識してつくっているからなのだと思います。「このご家族がこの玄関から外に出た時に似合うだろうか?」とイメージしながら設計しているんです。客観的に見た時に、その人たちが住んでいることがしっくりくる家。それこそ、その家族にとってベストマッチの家だといえるでしょう。「ウチが一番いい」なんて、最高のほめ言葉です!
食事をするスペースを家のベストポジションに
自然と家族が集まるダイニング
そんな家は居心地がいいから、家族が「旅行に行こう」と言わなくなったそうです。「いいじゃん、家にいれば」と(笑)。僕は食事をする場所を家の中でもベストポジションに置くようにしています。僕自身が食べることが大好きで、ランチで失敗すると一日中機嫌が悪くなってしまうくらいなので(笑)、それもあって、ダイニングスペースにはこだわりを持ってるんですよ。心地いい風が通って、陽の光も入って、庭が見えて、一番楽しいところ。リビングやテレビのある部屋よりも、おしゃべりをしながら食事を取る場所に、自然に家族が集まりやすい流れをつくるんです。子どもが自分の部屋にこもるよりも、食卓で勉強したくなるくらいの居心地のよさを目指しています。
だから、キッチンを最初に決めることが多いですね。キッチンは奥さまのこだわりが生きる場所。一般的に家族の中でもっとも家にいる時間が長い奥さま方は、家を建てる時の主導権を90%以上握っているといえるかもしれません(笑)。といっても実は、奥さま方はキッチンの種類やご自分の使い方のクセはよくわかっていないことがほとんど。潜在的にご自身が望んでいるキッチンとはどんなものなのかを、こちらが聞き出して解明していく必要があります。僕は持ち前の勘のよさも手伝って、奥さま方の理想のキッチンをうまく具体化することができているようです。そこから、キッチンに合った家族だんらんのダイニング、そして家全体をつくり上げていくんです。
土地が「ここの空間を生かして」と語りかけてくる!?
勘がいいといえば、土地を見に行くと土地が訴えかけてくることがあります(笑)。向こうから「ここの空間を生かして」と語りかけてくるんですね。今、家を建てる土地ってワケアリなことが多いんです。整った形の土地は大手が持っていくことが多いし、経験の浅い設計者でもつくりやすい。
形が複雑だったり、建物の面積に法律に則った条件があったりするワケアリな土地ほど、ベテランの腕の見せ所ですね!なるべく広く感じられる間取り、「こういう暮らしがしたい」という要望を汲んで限られた敷地に入れるのには、経験と勘のよさがものを言います。僕は間取りをスケッチしながらお話しするんですが、一番最初に書いたプランが最後まで残ることが多いんですよ。
職人さんたちとのパートナーシップも大切に
緻密な設計も現場で臨機応変に調整
魔法使いじゃないから、すべての要望を満たすのはムリ。それははっきりとお客さまにも説明します。優先順位を決めてもらって、高い順に叶えていく。ムリなところは違う形での解決法を提案します。「お客さまの要望だから」と納得いかないものをつくる設計者もいますが、僕はすごく厳しい上司にたたき上げられて、何度も設計図を破り捨てられたという経験があります。自分で「ここはちょっと……」と思うような部分があるものは絶対に出しませんね。
もうひとつ言えるのは、大工さんが感心するようなプランじゃないと通したくないということ。大工さんをはじめとする職人さんたちは百戦錬磨だから、尊敬しているし、彼らに見せるのがはずかしいようなプランは出したくありません。彼らのアドバイスは聞きますし、現場で真剣に話し合って、その場で細かな部分の設計を変更することもあります。これも、現場にたくさん足を運んでいるからこそ対処できること。大工さんや左官屋さんからお客さまを紹介してもらうこともあるんですよ。これはけっこう珍しいケースじゃないでしょうか。
「庭」は家の味つけを左右する“塩・コショウ”
高い位置の窓で景色を取り入れた作業スペース
よくありがちなのが、土地と家に予算を使ってしまって、しわ寄せで外構がおろそかになること。僕は庭というものは家づくりの最後の塩コショウだと思う。だからきちんと予算を割くようにしています。庭と言っても、予算がなかったら1本の木だけでもいいんですよ。広さは関係なく、建物の形によって周りにできる余白をどう演出するかなんです。借景を入れるために窓の位置を変えたり、食卓についた時の目線の高さに窓をつくって、ちょうどいい高さの植物を植えたり。
よく一緒に仕事をする庭師さんが言っている言葉が、「家と庭があって初めて家庭になる」。家の中から外を見て季節を感じることができるのは、家族がホッとできる大切な演出です。
喜んでもらえてお金までもらえる、いい仕事(笑)
先日、うちのホームページを見て訪ねて来た人がいました。話を聞いてみると、僕が16年前に設計したアパートにかつて住んでいた人だったんです。中庭の演出が特徴的な物件で、彼は新築で入居して7年間もいたそうです。あまりの人気に、16年経っても2000円しか賃料が下がっていないんだとか!そのアパートを気に入っていた彼は、設計者をわざわざ調べて、僕を訪ねてきてくれたんです。今回、奥さまのご実家が共同住宅を建てることになって、付加価値をつけるためにぜひ僕に依頼したいと。一般的に考えたら、どんなに気に入っても似たような作風の設計者を選ばれそうなものですよね。僕はとても感激して、周りの人たちにも「すごいでしょ!」と自慢しちゃってます(笑)。
本当に、勘のよさとツキとご縁で来た19年(笑)。喜んでもらえてお金までもらえる、いい仕事だと思っています。ストレスはまったくないですね。最近は以前のお客さまの息子さんや娘さんから依頼があったりと、時の流れを感じながらも、うれしい仕事をさせていただいています。古くからのお客さまとも、もちろん接点があって、「コンセントつけて」なんて頼まれることも。ちょっとした依頼でも、僕の顔を思い出して頼んでくれたことがうれしいし、ありがたいですね。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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