家づくりは工務店を中心に大工さんが支えている理由
日本の家づくりは、建造物が木造建築中心であったことから、大工さんが長らく建設現場における生産組織のトップの座にありました。現代では、元請け会社として工務店が存在し、その工務店の社員である施工管理者(現場監督)の指揮のもと、大工さんを中心に各職種を担当する職人さんが協力業者としてチームで家づくりを行っています。このコラムでは、家づくりのキーパーソンである大工さんの役割、仕事、関係性についてまとめてみます。
大工さんの歴史
大工さんは、中世では木工の長として「番匠」と呼ばれており、工事全体の統括者を「惣大工」、「御大工」、「棟梁」と呼ばれていたと言われています。江戸時代になると、工事を統括したのは「大工頭」、その下で設計・管理を担当したのが「大棟梁」と呼ばれたそうです。明治時代以降も大工さんの存在は大きく、当時の優秀な大工さんの中には、現在のスーパーゼネコンと呼ばれる大手建設会社の創業者になっている人もいます。
大工さんを最も多く必要とした時代が、新設住宅着工のピークを迎えた1970年代でした。徐々に木造住宅の建設を総合的に請け負う総合工事業として「木造建築工事業」が増え、現在の工務店の誕生につながります。戦後、木工事の範囲だけを専門工事業として行うのが「大工工事業」として区分され、現在の大工さんの仕事と役割になっていきました。職業としての大工さんが、企業としての工務店のもとで、専門職として仕事に従事するようになっていきました。
大工さんの役割と仕事とは?
大工さんとして修行を積み、一人前になった後は、主に下記の3通りに分類されます。
- 自ら工務店を起業し、元請けあるいは住宅会社の下請けの立場で家づくりを行う
- 大工の親方(棟梁)として、弟子の大工を育てつつ、工務店より仕事を受ける
- フリーの大工さんとして、いろいろな住宅会社や大工の親方(棟梁)から仕事を受ける
自社で設計・施工で注文住宅を手がける工務店や、設計事務所案件の施工を得意としている工務店は、主に上記2の大工さんに木工事を依頼していることが多いと思います。工務店の中には、大工さんを社員として雇用している場合もあります。大工さんの質が、自社の仕事の質を決めるという判断であり、優秀な工務店は優秀な大工さんと協働していることが多いです。
大工さんの仕事も昔とは大きく異なっています。昔は、街の中で大工さんが木を切ったり、カンナで削ったりする姿を現場や加工場なので目にする機会もあったと思います。現代の家づくりの現場では、木材も工場であらかじめカットされた部材が搬入され、それを組み立てる仕事が中心になっています。
新築の木造住宅の場合、大工さんの仕事の範囲としては、基礎工事完了後に基礎の上に土台を敷き、柱・梁などの構造躯体を立ち上げる「上棟」から始まります。その後に外壁の下地工事、外部建具の取り付け、断熱材の施工、内部の間仕切り、階段、床下地、壁下地、石膏ボード貼り、床のフローリング貼り、各種造作工事などです。
良い大工さんの定義とは?
それでも注文住宅の現場においては、お客様のこだわりを表現すべく、特別な設計やディテールがなされています。そうした現場では、やはり大工さんの技術、経験が肝になります。
良い大工さんの定義は、職人技の世界であり様々な評価軸があるので言葉にしにくいのが正直なところですが、あえてまとめると以下の3点の意識が高く実践している人だと筆者は考えます。
仕事が丁寧で、現場が綺麗であること
良い大工さんの現場は、まず整理整頓が徹底されており、作業完了後の清掃もしっかり行われているので、現場が綺麗なことが多いです。なぜかと言うと、正確で丁寧な仕事を効率よく行うためには、材料や工具を探す手間などを省き、仕事に集中できる環境をつくる必要があるからです。また現場を綺麗にすることで安全性も高まり、怪我などの防止にもつながります。
大工さんの仕事の多くは、木材や建材を「タテにつけたり、ヨコにつけたりする」ことの連続です。同じ現場で構造躯体から仕上げ工事前までの仕事をしますので、どこかの工程で仕事の精度を欠くと、精度を欠いた部分の帳尻を合わすようなかたちで次の工程の仕事が行われます。完成したときには気づきにくのですが、経年変化としてはそのような箇所から顕在化することが多いのです。木工事の全ての工程を丁寧に行うことが、必須の仕事なのです。
優秀な大工さんは、特殊なデザインの階段の施工や、造作家具等の施工も対応することができます。そうした部位を見るときに、端部の納まり(モノとモノがつながる部分)が、綺麗かつ正確に施工できる大工さんの存在は貴重です。
より良い仕事をするために、工務店や設計担当者とのコミュニケーションを欠かさないこと
優秀な大工さんは、みんなまじめで実直で一生懸命な方が多いと感じます。身体を動かして仕事をするのが大好きで、暑い中、寒い中でもなんとも思わずに楽しそうにやっています。「いいものをつくろう」という気持ちが伝わるような前向きな姿勢で施工をしています。
住宅の現場では、設計図だけでは理解しにくいこともあります。その場合に、大工さんが自分の判断で施工を勝手に進めるのではなく、施工を請けている工務店の施工管理者(現場監督)と常にコミュニケーションをとり、時には設計担当者も交えて設計の意図やお客様の要望を確認しつつ、大工としての知見を生かしながら適切な施工を行います。
家が完成すると見えなくなる部分にも、細心の注意と施工をしてくれること
大工さんと共に仕事を行う工務店の視点からみると、「大工の技量で家が決まる」と心の底から痛感していることを感じます。木材を取り付ける作業ひとつにしても、「止まってればいい」という姿勢なのか、釘1本1本に心をこめて丁寧に打つのかでは仕上がりが全然変わるからです。
できたての時には同じように見えても、手間を惜しみ丁寧な施工がなされていないと時間が経つと問題が出てきやすいことが、メンテナンスに行くと本当によくわかるからです。経年変化がなるべく起こりにくい家をつくることで、お客様に確かな品質の住宅をご提供できていることにもつながりますし、結果としてメンテナンスの負担が軽減されるわけですから、工務店としては大工さんの力量を重視することになります。
まとめ
最終的に仕上げ材を貼ったり塗ったりすることで家は完成しますので、大工さんの力量を目で見て判断することは難しいのですが、下地までの施工がきちんと行われていないと、住み始めてからの経年変化が現れやすくなります。工務店はこうしたことを理解しておりますので、実力があり実績のある大工さんを頼りにしているのです。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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