公開日:2016.03.28 / 最終更新日:2018.11.03
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一緒に考えていく
お客様と対話を重ねることで家族ひとりひとりの要望を深く理解し、どんな家が望ましいのかを一緒に考えながら家づくりをしていくつくり手が、群馬県館林市にある設計事務所「空間設計室」代表の中村喬さんです。
群馬県の東側にある館林市は古くからの城下町。
この地で創業した「空間設計室」は、お客様を正しく知るまで設計を始めないという独自の哲学をもった建築設計事務所でした。
お客様が求める住まいとは何かを、コミュニケーションを積み重ねながら、一緒に考えていく家づくり。そんな魅力あふれる話を聞くことができました。
空間設計室の代表は中村喬さん。
空間設計室の事務所は、館林駅から徒歩5分の場所にある中村さんの実家の一角の古い倉庫をリノベーションした平家の建物。
「館林で生まれ、この街にずっと住んでいます。大学時代だけ埼玉県の川越市に住んでいました」
「子供の頃は、自然や星を見るのが好きでした。中学生のときにテニス部に入り、高校でも続けました。今でも地元のテニス協会の役員をやっています」
建築の世界を志した理由
「子供の頃からフリーで働ける仕事に憧れていました。母方の家系は洋服関連の仕事をしており、ものづくりが好きだったのかもしれません。フリーで技術者というところで建築に辿り着きました」
「小学生のときに、親が家をハウスメーカーに依頼して建てたのですが、子供心にその家が嫌で(笑)。俺だったら、もっといい家を建てるのにと思っていました」
「父が電気関係の設計者だったので、家に製図台がありました。子供の頃から図面を書いていたので、図面を書くのは得意でした」
進学した東洋大学では、4年生のときに建築・都市研究の研究室に所属し、その先生には大きな影響を受けたそうです。
独立
大学卒業後は、2社の建築設計事務所の仕事を経て、27歳の若さで独立する。
「独立後、最初の3年間は、他社から依頼された図面作成や申請業務などを行う日々でした。プライベートでは地元の仲間とテニスをしていましたね」
「自社での設計契約1件目は、テニス仲間がお客様を紹介してくれたのです」
そのデビュー作が住宅雑誌に掲載され、その雑誌を見た別のお客様から2件目を受注したとのこと。
「周りの設計事務所と比べて、自社のホームページを準備するのが早かったと思います。徐々にホームページからの問い合わせが増えていきました」
当時は館林周辺で設計事務所に住宅の設計を依頼する人はかなり限られていたこともあり、他のエリアで中村さんは実績を積み重ねてきたそうです。
お客様を知ることに時間をかける
空間設計室のホームページを見ると、事例紹介のページの家ごとに「初回打合せから完成までの時間」が示されている。これはかなり珍しい。
中村さんにその理由を聞いてみる。
「私はお客様を知ることに時間をかけます。お客様がどういう人なのかを知らないと住宅の設計はできないと考えています」
「初回打ち合わせ以外は、お客様の家で打ち合わせをするようにしています。お客様のありのままの姿、ライフスタイルを知るためです」
「初めてお会いするお客様には私の住宅設計に関する考え方を伝え、他社と比較して時間がかかることを説明した上でご理解をいただいています」
通常、設計事務所はお客様へのヒアリングを行い、その内容に基づいて設計提案を行い、設計を進めていく。
中村さんの考えは違う。
「お客様と一緒に考えていきます。なぜならお客様が住む家だからです」
「お客様が頭で考えていることや感じていることを、私がかたちにしているとも言えると思います」
「毎日のように食べる料理は、飽きのこないものがよいですよね。味付けも薄いほうがよいし、食べ続けると舌が馴染んでくる。それは料理を作る人が食べる人の味付けの好みを知らないとつくれないですよね。家も同じだと考えています」
中村さんの家づくりに関する哲学は、真実かもしれない。
設計者は家を考えることはできるが、自分がそこに住むわけではない。住むのはあくまでもお客様であり、そのためにまずは今のお客様の暮らしを理解し、これからの暮らしについて共に考える。中村さんの家づくりは、一緒に答えを探していく家づくりだ。
「お客様の夫婦関係を知り、家族全員の要望を個別に聞くようにしています。その際は家族同士で相談しないで、個別に何でも書いてもらうようにしています。家族ひとりひとりの本音を知りたいからです」
「家族の中で発言力の強い人の意見が強くなるのがいやなので、個別に文書で書いてもらうようにしています」
こうした方法で家族の本音を知るようにしているという。そうすると家族の中で互いに我慢していることなどがわかるらしい。家族だからこそ、言いにくいこともある。
中村さんはそうした家族の情報を頭に入れてから、設計を始めるそうだ。
お客様を理解してから設計する
「お客様とお会いして、早い段階ではプランで興味をひかないようにあえてプランを書かないようにしています」
「たたき台の案を作成すると、お客様が最初のイメージに引きずられてしまいます。そのため、お客様とは図面がない状況でのコミュニケーションを重視しています」
建築家は通常設計力で訴求することが多いので、異例の方法だ。
「私を知っていただくことも大切なので、私が今まで手がけた家にお客様を案内するようにしています。事前にご連絡すれば、ほとんどの家がご案内可能です」
「家はいかにくつろげるかが大切だと考えています。そのためにはお客様がどのようにくつろぎたい人なのかを知ることが必要なのです」
中村さんは、お客様とまず仲良くなり人間関係をつくることから始める。そうすることで、お客様側が中村さんには全部を見せても構わないという心理状態となり、なぜ家が欲しいのかというところから共に考えられる。
自分が望む家を考えて、つくり手に伝えることは難しいことです。つくり手と心を通わせることで、自分の理想の住まいを共に考えていきたい人には、空間設計室は最適なつくり手です。
空間設計室の「一緒に考えていく」はここまでです。
次回は空間設計室の「住まいのコンシェルジュを目指して」をお伝えします。
HOUSEBASE 代表取締役 植村将志
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